令和二年 十二の歌会より

息子より安否確認「生きてるか」ぶっきらぼうなスマホのメール 水すまし

紅の山茶花散りて椿咲く寒さに負けず凛と真白に      板ヤンマン

溜池の崩れた土手の夕暮れに白鷺一羽何を見つむる     いつつばし

夫曰く「俺は不死身だ又呑むぞ」啖呵を切って七度目のオペ まさこ

枯葉落ちお肌が見える欅の木北風吹くな寒いじゃないか   かつゆき

漱石の終の病いか点滴のしずくは静かに腕に入りくる    笹谷逸朗

輪王寺の下のトンネル初体験眠れる魂大丈夫かな      晴

認知症ドラマに深みと隠し味「折り梅」というゆかしき言葉 大須賀章

年老いた猫の粗相に閉口も傍で過ごした月日に感謝     ふじこ

寒菊を四、五本残せば冬ざれのさ庭に揺れる主役の顔して  小町

鉛色皆の気持ちを思う時頭が下がるコロナの介添人     スナメリ

北風に寒さに震える残り花一輪だけのコスモスの花     縁寿

報復は憎しみを生み憎しみは望まぬままにアウシュビッツを生む ヒカル

 

令和二年 十一の歌会より

戦争に負けて良かったしみじみと母は呟く誰にともなく   ヒカル

百枚のガラスのビルに映る秋雲ゆっくりと左へ動く     晴

常長の失意の祈りは風を受け真紅のもみじハラハラと落つ  まさこ

ライト消し一人でジャズを聴きながらオンザロックで秋のお月見 かつゆき

広瀬川川面澄みても底濁りされど魚はゆうと泳ぎし     ふじこ

紅葉狩り友より届く山の幸夕餉に炊きて旬を味わい     水すまし

水の辺の葦牙のごと萌えあがる歌詠み続け齢重ねん     大須賀章

午後三時夢に連れ行く暑毛布古希の疲れを置き去りにして  いつつばし

強い気で辛さ悲しさ乗りこえる支えてくれる親友あればこそ イタヤンマン

時ならぬ陽気に温き雨が降るコロナの三波収めるように   笹谷逸朗

下向いて落葉の山を蹴る男の子どうしたのかと聞く手立てなし 小町

秋風に月を背中に影を踏む薄がゆれて家路を急ぐ      縁寿

 

 

令和二年 十の歌会より

首出せば縦には降らず横にのみ頑固がとりえ古扇風機   いつつばし

コトコトと妻の料理の音がする元気で平和今日も幸せ   イタやンマン

藪の中小粒の赤い水ひきを手折りて生ける今宵十五夜   まさこ

イカ釣りの船が停泊八戸の市は賑わい傘の花咲く     ふじこ

聴く人の心動かす作曲家時代を耳に残して逝きし     水すまし

左沢往時はいかに最上川深き谷間に舟唄聞こえず     笹谷逸朗

血圧を毎晩はかり記録して今日はいいねとビールが旨い  かつゆき

空き家ふえ秋明菊が乱れ咲く白色紅色かなし色      晴

夢の中スルリと胃カメラ飲み込みてあとはおぼろで覚醒宜し 大須賀章

横文字と若者言葉入り乱るだきしめたくなる愛しき日本語 小町

秋雨に頰を濡らして翔出して学校帰りの児童が走る    縁寿

とりどりのマスクが通いファッションの一部となりし個性も生きる

                           ヒカル 

令和二年 九の歌会より

語り部の翁の声も細くなり戦禍の悲劇誰ぞ伝える      いつつばし

楽しみな天然鮎の焼く香り暑さし凌ぎは冷たいビール    水すまし

秋来れば秋を営む虫の声帰るすべなくオロローンと泣く   ヒカル

ころころんちりりん聞ゆ心音の優しき音色音なき音よ    ふじこ

コロナ禍は高齢社会に楔打ち安全安心縋るものなく     大須賀章

亡き人を偲ぶか一輪くちなしの花猛暑日の長月に浮く    まさこ

鮮やかに秋も咲く薔薇見事なり我が生き方に元気をくれる  イタヤンマン

あとはただ堕ちていくのみ熱気なき路線継承棚ぼた政府   笹谷逸朗

道の辺にとがめもされず韮のはな万歳するごと背伸びするごと 小町

空襲で焼けし街にむくげ落つその姿まるで弾丸に見ゆ    晴

暑い日に木陰でじっと石仏汗もかかずに行く夏おしむ    縁寿

 

令和二年 八の歌会より

コロナ禍に生れた赤子の泣き声は天を射ぬける祈りの如し  まさこ

浜風と大海原を借景にかわまちてらすのシラス丼      大須賀章

頂きしぼっちゃん南瓜栗みたい半世紀前の鉈割りの味    水すまし

修行僧も三密避けて托鉢する油照りするペデストリアンデッキ  晴

水色の絵の具を含みて空海の境を消したカオスの世界    ふじこ

雨雨雨挫亜挫亜挫亜土歩土歩土歩剛剛剛柄柄柄       ヒカル

コロナ禍や後はどうなれGoGoと旗を振る菅だんまりの安倍   笹谷逸朗

畔の草刈り取る男もマスクして日本の民はみな真面目です  小町

歳取ると四季の変化を愛でるよう暑さ寒さに悲鳴をあげる  イタヤンマン

ひっそりと静まりかえった公園は太鼓も人影も無し     縁寿

チェロのよう田圃に響くトラクター

          ハンドル切れば気分はヨーヨーマ  いつつばし  

 

令和二年 七の歌会より

玄関の前に飾りし七夕に孫は書きおり無垢な願いを     いつつばし

大雨で穏やかな川豹変す自然の猛威思い知らさる      イタヤンマン

蕉翁の足跡辿り国分寺三百年後も黄色のあやめ       晴

墨で描く景色に映る人の世の見えぬ嘆きと流れる川面    ふじこ

遠くから子等はしゃぐ声流る何事なき日々これが幸せ    まさこ

十万円振り込まれるの待っていた電気水道暮らしに消えた  水すまし

隣席に東京からの若者が二週間経ち首筋なでる       笹谷逸朗

水草の繁茂する中潜みたる牛蛙ぞ鳴く小松島沼       大須賀章

庭の木に置き忘られた綿菓子の如く蜘蛛の巣朝露に白く   小町

父の日に嫁いだ娘のプレゼントパジャマぴったり寝心地満点 縁寿

盤上の寄せては返すこの一手一閃の技十七の笑顔      ヒカル

 

令和二年 六の歌会より

ある国の首相はかなり頑固だな小さなマスク何時までかける  晴

生きてたねコロナ騒ぎで久しぶり無事で良かった笑顔が見れて 

                                                                                                                                                イタヤンマン

飲み会も先送りされ意気消沈早や三ヶ月解禁を待つ      大須賀章

「マスク急ぐ」息子のスマホにミシン踏む千人針の往時思いつ まさこ

断捨離に元カノと撮った写真を慌てふためきそっとしまいぬ  三星ヒカル

裏山に磯ひよどりが来たという凶事収まる兆しなるかも    笹谷逸朗

古き歌歌えば思う亡き母と手つなぎ歩く幼きわたし      ふじこ

水張りて田圃千枚空となり燕も風も雲も映して        いつつばし

春風に乗りて並びし花びらは路いっぱいにくるくる回り    水すまし

朝夕に早くとせかされ乙女子が頰染めるごとトマト色づく   小町

青空を流れて消える白い雲旅立つ友をひとり見送る      縁寿

 

令和二年 三月と四月と五月の歌会は休会です

 

令和二年 二の歌会より

枇杷の木に寄りしメジロよもう少しそのまま止まり声を聞かせて 笹谷逸朗

どしゃ降りの冬田に群れし渡り鳥餌をついばみ小頸をかしげ   水すまし

皆さんに挨拶できぬ突然死心残りなさみしい別れ          イタヤンマン

青空に煙草の煙背中の湯気暫し一服屋根の雪掻き       いつつばし

薬師堂火渡り修行の神事あり塩踏み初めつつ信徒は歩む    大須賀章

 薬師堂の屋根の瓦に群れる鳩豆撒きの豆ねらっているか    晴

空見上げ地を見下ろして確認す確り地に足着けてることを   ふじこ

柚子百%手作りジャムはほっこりと炊いてくれたる友の優しさ 小町

立春の朝の光の窓辺には鬼が忘れたピーナツひとつ      まさこ

北海の荒れ立つ波は顔を刺し寄せ来る白牙は海のかんばせ   三星ヒカル

冬枯れの葭の葉音に春の風微温みに目白が集う        縁寿

 

令和二年 一の歌会より

地獄灰色の毛並みやさしき子白鳥親に従い青い空翔ぶ     晴

華やかなセンスユーモアきらきらと麗人見えぬは歌会寂し   まさこ

明け方の夢現れしちいさき子嫁のメールで嬉し報告      藤子

白月に影を映して迷い鳥羽音淋しや冬の荒沼         いつつばし

悪友もどこか憎めぬ味があるつい誘われて今日も付き合う   イタヤンマン

故郷に向かえば大きな虹の橋義母を囲んで御節をひらく    小町

台湾へまた行かんかな総統選終えて民主の風吹く街へ     笹谷逸朗

初場所に力士揃いて土俵入り見事に伸びた四股踏む姿     水すまし

七草の香りゆたかに春を呼ぶ粥一碗に歳を重ねて       縁寿

とある地の二人静といふ喫茶店イメージ膨らむ扉を開ける   大須賀章

幼子が足をクニャクニャ指なめる吾は枯れ足に咲く爪を切る  三星 ヒカル