令和三年 十二の歌会より

短歌ってこれでよいのだ俵万智カンチュウハイを左手にもつ かつゆき

風呂好きな義母の湯灌を施して笑顔見たよう心安らぎ    水すまし

統計はかくも軽きか国民の暮らしをうつす鏡はいずこ    笹谷逸朗

ただ真相知りたき妻に財務省幕引きはかる奇策詭策で    小町

抗わず風に流され行く我に遠き冬星道を示して       いつつばし

昔見た映画のヒーローまた一人亡くなり寂し昭和が恋し   イタヤンマン

ぼんやりと食後の片付けせぬままに微睡み更ける初冬の一日 まさこ

鬼平と吉右衛門が同化して江戸の町へとタイムスリップ   晴

ノルディック東西南北風強しサロンで座学で凌がん     大須賀章

年老いて思い出遠く秋の空一人ベンチで短歌をつくる    縁寿

手の中に写真一枚握りしめ秋時雨に喪服の私        ふじこ

北の海は荒々しくも寒々と意識そがれる波の花散る     ヒカル

 

令和三年 十一の歌会より

糸先をなめて針穴めがければ一度で入ったと思うこのごろ  小町

お互いに心通じる長き友故障の身体気づかいながら     水すまし

黄色葉がひらりひらりと舞い落ちる秋も終わりか頬に冷たく かつゆき

ここかしこ徐々に増えゆく空き店舗大丈夫なのか一番町は  笹谷逸朗

ベランダに冬の陽射しは嫋やかに蕾開いてブルーデイジイ  いつつばし

線路脇のフェンスに黄色の実が絡む母さんの編むセーター模様 まさこ

子ども等が彩雲見つけ燥いでる今日はこれから良い事あるか 大須賀章

石塊の河原の小道そぞろ行く頰うつ風の秋の冷たさ     縁寿

二年過ぎマスクの下の顔忘る笑っている顔怒っている顔   ヒカル

久しぶり妻と二人で小旅行コロナ気にせずおいしい空気   イタヤンマン

朝日浴びほっこり笑みが食卓に季節外れのベランダトマト  ふじこ

 

令和三年 十の歌会より

コスモスを詩に読むとき思いだす花とかさなる山口百恵  かつゆき

傷なんて無いのに痛む恋心身分下げても叶えし願い    水すまし

字を書いて自信無くなり辞書を見る間違い無いと一人頷く イタヤンマン

街なかの木造小さなレストラン未だ健在コーヒー香りて  まさこ

コロナとの闘いいつか終焉へ恨みつらみをあまた残して  笹谷逸朗

美味いのにしぶときものよ難儀させ鬼皮渋皮身にまとう栗 小町

日常を取り戻せたら皆寄りてたらふく飲んでただ叫びたい ヒカル

遠目にも朝顔とわかる青き花消防団のフェンスにからむ  晴

古鍬を杖の代わりに腰伸ばし休み休みにネギ掘り作業   いつつばし

久々のパークゴルフに満ちたれり楽しむこつは阿吽の呼吸 大須賀章

横丁の古き酒場の井戸端に煙草燻らせ酔い覚まし人    ふじこ

秋雨に濡れて色づくコスモスに道行く人の心が和む    縁寿

            

令和三年 九の歌会より

検査では異常なしとう病院のコントロール下に5年目迎う 笹谷逸朗

選抜でやっと叶った甲子園級友コロナに無念の辞退    水すまし

コロナ禍で数十人が死んでいく聞き流している自分が怖い かつゆき

公園で幼と遊ぶ若き母見え隠れして「もういいよ」の声  小町

誰吹かす解散風は大義なく守るは議席民を忘れて     いつつばし

端正な老女白髪はキラキラと赤い背表紙スマホでタップす まさこ

雨に割れし無農薬のミニトマト完熟の赤そっと摘み取る  大須賀章

四十や五十の選手活躍し真の競技はパラリンピックに   晴

日が沈み草むらの虫は慌ただし鳴き騒ぐ音はセンキョセンキョ ヒカル

まごつくよ妻が入院忙しい9月のバラが癒してくれる   イタヤンマン

夕焼けにコウモリ飛びて靴放る母まだ来ぬか夕餉はまだか ふじこ

病葉を水に浮かべて梅田川遠く海まで届くだろうか    縁寿

 

令和三年 八の歌会より

微風に背筋伸ばして坂道をポールに委ね仲間と歩き    水すまし

国民の為というのは幻想と日々露わになり日本の政治   笹谷逸朗

盆過ぎて狂おしい程蝉は鳴き夜更けて虫はか細くつましく まさこ

青青と広がる稲田に何を見る一羽の白鷺すっくと立ちて  小町

夏雲の影を映してたおやかに不忘の峰はみちのくの母   いつつばし

黒い線近づき見れば蟻たちが命を運ぶ暑さの中で     かつゆき

菅さんよあんたに総理無理だわな裏で画策寝技師似合う  イタヤンマン

政宗の母への想い今もなお保春院には百鉢の蓮      晴

急拡大変異ウイルスデルタ株七十七億の未来蝕む     大須賀章

灼熱の戦後七十六年蝉がなく終わることなき殺戮の世界  ふじこ

青空に薄雲をひく秋の空首筋通る風の冷たさ       縁寿

平成の子等の明るさ「兄ちゃんも強かった」と兄妹でメダル ヒカル

 

令和三年 七の歌会より

八重山の古典奏でる三線に喜怒哀楽を含めし音色      水すまし

しとしとと雨音ききて行く先は紫陽花にあう北山五山    かつゆき

ひこばえが出て次々と蘇えるさすが君らはイネ科の雑草だ  笹谷逸朗

七夕もコロナの汚れの天の川今年も会えぬリモートの恋   ヒカル

紫陽花のシャッター浴びず脇に咲く名も忘れらし鈴に似た花 まさこ

雨やみて地に着きそうな紫陽花の露をはらえば笑顔に見える 小町

雀二羽車の影でひと休み真夏の日差しを避けてのんびり   イタヤンマン

梅雨明けて街は一気に夏モード今年の蝉もかなかな鳴くか  大須賀章

山形の食の工夫は限りなく「すべりひゆ」には腰を抜かしぬ 晴

夏休み宿題日記に詰め込んだ小さき思い今も脳裏に     いつつばし

玄関で傘を片手に見上げれば降るか降らぬか思案の時間   縁寿

喧騒の風に舞い飛ぶ黒アゲハ何処で生まれ来何処へ飛びゆく ふじこ 

 

令和三年 六の歌会より

花びらをチリ取りいっぱいかき集め袋に甘き香りを込めて  水すまし

病でも抗がん剤は苦しかり頭の中はゴルフと歌会      ヒカル

猫たちが何時もの場所に現れて餌を与える猫背のばあば   かつゆき

一度枯れまた咲き出した赤いバラ我が人生もこうありたいな イタヤンマン

スナックの奥の席にて熱燗を干し世の中を嘆いていた人   笹谷逸朗

待合で絵本読みつつ幼子は「ママのお薬もうすぐだね」と  いつつばし

友の庭メルヘンの国は百花揺れ「遊びに来てね」と私を誘う まさこ

「五月雨は緑色」初恋歌う村下孝造古民家に響く      晴

ポップスを皆で歌うは楽しけり失われし時取り戻す如    大須賀章

義母に聞く蕗の甘露煮のレシピある「そんなのねえよ塩梅良くさ」 小町

垣根から一つ首出す紫陽花の花の笑顔につい話しかけ    縁寿

山伏が法螺貝吹いて神妙に山の神様コロナ鎮めて      スナメリ

虹が出たレンズの中に街がある忘れかけてた息づく暮らし  ふじこ

 

令和三年 五の歌会より

三密はもう辟易す変異コロナに負けた打つ手ないかも     ヒカル

初夏の灯に色とりどりの山菜は食卓飾り旬を味わう      水すまし

登記簿の権利書届き背を正す主は我ぞ街並み眺めつ      まさこ

山間の民家の庭に牝鹿来る新芽食み食み悠然として      大須賀章

花なのか葉が染ったのか白く見え静かが似合う花水木かな   かつゆき

スギナ抜く一本一本隠れてるミツバに光当ててあげよう    笹谷逸朗

トリチウム薄めて海にという人は水俣の悲劇記憶にないか   晴

地に這いてカメラ向ければレンズ越し土筆は揺れて微笑み返す いつつばし

春の音は小川のせせらぎ雀なき蝶の羽音はまなこに聞かせ   小町

春過ぎて庭も心も寂しいな映して君に送る花無し      イタヤンマン

風に舞うひとひらの花散るあわれ水の流れに何処に消える   縁寿

鯉のぼり子らが集まりワイヤーでバックに桜勇壮に泳ぐ    スナメリ

年老いて母の日忘るも子たちから物言わずとも想いは届く   ふじこ

 

令和三年 四の歌会より

妻満点顎は二重で腹三段肩は五十で合わせて百点        ヒカル

くるくるとピンクの花びら輪を描いて下校の子等の後追いかける まさこ

汚染した故郷追われ差別受け廃墟と化した代々の家       水すまし

ばか言って話せる友いる歌の会いいねと言われよろこぶあほう  かつゆき

火事場泥のごとく政府はコロナ禍に海洋投棄さっと決めたり   笹谷逸朗

「此処に住み空気が良くて健康に」半世紀前の祖母の口癖    大須賀章

足悪く何度も休み取りながら頑張る妻につきあい歩き    イタヤンマン

空澄めど蔵王の尾根は風巻いて雪庇の先は刃のごとし    いつつばし

バス車すべて追い抜き青年は冷めぬようにとイーツ宅配   晴

先日まで看板あったレストラン今日は空っぽテナント募集  小町

桜咲く巣立つ子どもの凛々しさと空の巣守る母の寂しさ   ふじこ

踊り子が浅黒肌を輝かせ見事なリズム見惚れる私      スナメリ

夜桜に弥生の春の月の影一人家路に花びらを踏む      縁寿

 

令和三年 三の歌会より

ふと目ざめ短歌のねたをメモをしてふたたび眠りトイレで起きる かつゆき

市に春どんこ捌けば胃の腑には海老赤々と二匹鎮座す    晴

生まれ逝く人間の一生営みはあまたの人の支えにありて   まさこ

香港に続きミャンマーも民主化を叫び自由に命をかける   ヒカル

楽しめる趣味の仲間と話す時こぼれる笑顔つなげ長寿に   水すまし

対面の紅梅と白梅競い合う一月遅れを取り戻さんと     大須賀章

ニューコロナ人の心の隙見つけ歴史を変える意思持つ如し  笹谷逸朗

白霜に覆われし畑ゆっくりと耕す農機春を奏でて             いつつばし

日溜りの土手にうまれし蕗の薹つみとる義母の皺深き手   小町

雪降りて蕾は語る震災の咲けぬ命の花らの想い       ふじこ

この浜で数千の人海に消え今は穏やかただ波静か      縁寿

初雪がここぞとばかり降りかかる冬将軍が天からウフフ   スナメリ

地震あり温暖進みコロナまで国も喧嘩で地球危ない     イタヤンマン

 

令和三年 二の歌会より

ふんわりと風にはこばれ花かおる春が来るのだ小さな花屋  かつゆき

友人の再度の手術入院に傷も無いのに痛む我が胸                               水すまし

津波にて落命したる職員の御影の石碑春日に光る      晴 

四千キロの旅の準備に羽ばたきぬ朝日に光るV型飛行     ヒカル

飛びはねた10年過ぎてまた地震ボケ防止には刺激強過ぎ  イタヤンマン

ワクチンを作れぬ国が空母もつどこか順序が違ってないか   笹谷逸朗

「旨かったご馳走様」を励みとし「せっせと料理作るわ あなた」 まさこ

道端にしゃがみ指差し幼子は母に尋ねし福寿草の名     いつつばし

如月に降り積む雪はやわらかく光はやさしく春くる兆し   小町

天気良し白黒ブチの野良猫が干物ねらって大ジャンプ    スナメリ

思い出は匂いと音でよみがえる形無けども戻るる想い    ふじこ

陽を受けて看護協会庭園の寒桜の花綻び始む        大須賀章

音も無く優雅にすべる白鳥は川面に写る冬の踊り子     縁寿

 

令和三年 一の歌会より

帰省なし息子ファミリー逢えなくて雪の巣篭もり寂し忌正月  水すまし

鉄旅のテレビ見てたら刺激受け彼処も此処も行きたい見たい イタヤンマン

美味しいねその一言で腕まくり妻の笑顔に献立ふやす     かつゆき

堅くなな蕾一つの椿枝去年に手折りて寒にほころぶ      まさこ

雲のように流れるごとし見上げれば天井板の木目が動く    笹谷逸朗

ぬばたまの冬至の夜の暗闇を背に一気に読む黒皮の手帖    ヒカル

五七五考えてれば愚痴も消え倖せになると歌友と笑う     晴

黄金の唐松林抜け出れば白き月山我を迎えて         いつつばし

背を向けてそこがかゆいと言える君が側にいる幸せ想う元旦  小町

どんと祭参道すっきり整いて裸祭もマスク姿に        大須賀章

外は雪七草粥の湯気の中芹の緑は春の味呼ぶ         縁寿

天からの雪が舞う中寄り添って二羽の白鳥踊り狂うか     スナメリ

母想う娘の心映し出す鏡の中に温き火灯る          ふじこ