平成28年12月の歌会より

音も無い絵画のような雪景色動かぬ世界に雁は舞い降り     いつつばし

忘年会季節迎える師走月今年も無事で嬉しきことよ       こうさくどん

履きなれし元気守ってくれた靴悲しき別れ傷みはげしく     水すまし

竹鶴に氷一片落とし入れ一人忘年会これもいいかも       スナメリ

騒音の一つになりし除夜の鐘崇めるものがまた一つ失せ     雅仙

メガホンの声に押されて坂道へクイーンズ駅伝小柄なランナー  大須賀 章

ウイーヒックゴックゴク泡飲みフーラフラみーんな持ってけ汚れよさらば

                              まさこ 

掘炬燵膝に抱かれ乳のみ子の日ざしやわらか午後のひととき   縁寿

神々と千手の枝に星洩れるあるがままでよし命とこころ     びひゃーな

ウクライナ生まれの舞姫陽気なり祖国の苦境心に秘めて     笹谷 逸朗

自分では親になる人選べぬが幸せでした母の子供で       イタヤンマン

初生りの柚子を摘む手も嬉しくて握る鋏に力のこもる      宮野 小町

 

平成28年11月の歌会より

街路樹に唸り高めるチエーンソウ空を広げたある月曜日     雅仙

辻角に托鉢の僧経読みて公園の鳩足元に遊ぶ          あがさ

試合後の子らを夕陽が照らしおり影はチョッピリ大人に見えて  いつつばし

肺炎の予防接種後ほてる腕童子のような赤いほっぺに      水すまし

白き陽をまばゆく返し咲き盛る秋明菊の一ひら落ちる      笹谷 逸郎

やわらかな絵筆の赤はアネモネの花びら重ねて夢へと誘う    まさこ

風強し眺めさいこう毘沙門天階段のぼり息もようよう      スナメリ

ざんざん降り物ともせずにYOSAKOIの鮮やかな衣装湯気あげ跳ねる 宮野 小町

公園で無邪気にはしゃぐ子供らを見守る母の愛の眼差し     イタヤンマン

公園の萩の紫こぼれ花道行く人の足元の舞う          縁寿

紙芝居手巻きオルゴールエトセトラまるで貴方は公園の手品師  大須賀 章

 

平成28年10月の歌会より

路地の月甘い香りと風に乗り流れる雲間かくれんぼして     水すまし

秋の夜に月光の曲聴こえきて因数分解ノートに広がる      あがさ

月にゆき金婚式をあげたいな地球見ながら乾杯したい      イタヤンマン

乗車したバスの中ほど盲導犬先の空席行くに行けなく      雅仙

月うつす水面に雁は羽やすめ貞山堀に命ふたたび        いつつばし

いざさらばいずれの日に又逢わん兄じゃよ兄じゃ安らかに眠れ  びひゃーな

渋皮煮教えてくれたあの人の記憶戻れと栗の皮むく       まさこ

その出自語るはむなしヒメジョオンやまとのくにの初秋を飾る  笹谷 逸朗

フニフニと幼子笑う月見より顔見あわせて幸福に酔う      スナメリ

秋風のつめたさ肌に叔父の通夜終えてながむる眉月淡し     宮野 小町

露天風呂月をくずさず足先をそっと沈める山あいの宿      縁寿

山寺の奥の院へと石畳つづら折にて千段を越ゆ         大須賀 章

 

平成28年9月の歌会より

霧ふかき港に汽笛なりひびき釜山港の歌われも唄わ       笹谷 逸郎

馬鹿ねと言い阿保とあきれ十五年ようよう柚子は丸き実をつけ  宮野 小町

風に乗り仙台ジャズフェス熱く燃えビルの谷間に虫も浮かれて  水すまし

目覚めつつりりりん鳴ってスタンバイ熟年家族時短のメニュー  さちこ

初鳴きの虫に別れを告げるよう蜩ほそき声を搾りて       いつつばし

庭先で虫の音騒ぐ夕暮れに燗の酒くみ月の出を待つ       縁寿 

秋祭り階段下る神輿渡御台風一過雲定まりぬ          大須賀 章

炎昼もついきのうやと思ゆれど気づけば部屋に秋風と座す    びひゃーな

風の盆どこか淋しいメロディーに今夜も舞うか老若男女     スナメリ

台風のつめあとのこす映像にまぶしき程の夕日は照らす     雅仙

お月さまあなたの素顔知りましたうさぎかぐや姫居させて下さい まさこ

御芯入れ魂宿りし仏像はさらにやさしく御仏となる       イタヤンマン

我作り野菜を食べる愛い孫その若肌で何思いしや        こうさくどん

 

平成28年8月の歌会より

盆去りて人なき寺の夕日暮れ白き山百合緑陰に浮く       まさこ

戒名 ふしぎおかし死んでから盗みと不倫絶対できぬ      こうさくどん

色薄き都忘れの絵手紙は少なき文字に姉の優しさ        いつつばし

畑からの授かり物を並べ売る嫗ら集う朝市の立ち        びひゃーな

雨上りすず成り手無しいんげんも泥のエステに輝く緑      水すまし

パット咲く夜空に開いた菊の花天高く伸びあの人のもと     スナメリ

音もなく覆いかぶさり突然に夕立降らす空の妖怪        笹谷 逸朗

騒音を掻き消してふる蟬時雨今日の一日を懸命に鳴く      宮野 小町

初盆に提灯つけて祈ってる母の御霊よ安らかなれと       イタヤンマン

部活終え夕日に赤い校門に帰りを急ぐ学童走る         縁寿

拍手浴び卒寿の女は軽やかにクイックステップで裾ひるがえす  あがさ

盆の入りご先祖様の来る時刻お迎えの火は線香花火       大須賀 章

 

平成28年7月の歌会より

嫋やかに風受け流す青もみじ向きにならずに生きたし吾も    いつつばし

逃げるよに指から落つる砂つぶよ輪廻の果ては何を望まん    びひゃーな

孫と行く角田で梅取り籠いっぱい嬉し楽しと燥いで踊る     スナメリ

胸がキュンあの歌聞けば思い出す遠い昔の恋物語        イタヤンマン

タンポポが野原一面咲く中に外れし二本寄り添いて咲く     いちょうまち

眠るとは民の目と書くこの僕は目覚めていない国の民です    こうさくどん

突然のけが激痛に歩かれずサポーター巻き生きるをつなぐ    水すまし

栄光の哀しみの中ベトナムは今に到れり驟雨の古城       笹谷 逸朗

秘めし想い伝えぬままかこの年も半夏生は色も変わらず     宮野 小町

昼下がりかわいた道をゆっくりと毛虫が通る梅雨の晴れまに   縁寿

仲間うち「好きだったよね」と語り合う過去形だけの君の存在  あがさ

 

平成28年6月の歌会より

ままごとのスコップじょうろ砂の上遊びし幼子腕に眠る     まさこ

七十余年主語のなき碑の待ちわびし原爆落としし国の人来る   びひゃーな

子宝草驚くはやさで命つぐ天突くがごと伸びゆきて       スナメリ

雨の日のさむきひびきに思うかな弱音はくにも力要るなん    雅仙

時流れシニアネットの身になれど心はいつも青春だよ      こうさくどん

藤棚を過ぎゆく風はゆっくりと黄泉の国との境へ向かう     笹谷 逸朗

舗装道すきま見つけし雑草が踏まれ根をはり生きる根性魂    いちょうまち

新宿の地下道迷いし森のようやっとの出口ほとばしる汗     水すまし 

節榑の手で摘み取りし蓴菜の喉通りすぐ小気味よいほど     宮野 小町

イエローにピンクにレッド競い合い己が主役と薔薇は咲きたり  いつつばし

妻出かけ留守番しててふと思う自分ひとりで生きて行けるや   いたやんまん

すくすくと苗が育った広い田にゆっくり歩む白鷺一羽      縁寿

入梅に目地の雑草緑なす通り一面はこべら増えて        大須賀 章

 

平成28年5月の歌会より

ゆうゆうと風を引連れ舞うとんびに預けるこころ思い出すなり  雅仙

シャンソンが聞こえる喫茶懐かしき恋心とかろくでなしとか   スナメリ

太白山登りて東を眺むれば海辺は未だ緑疎らで         いつつばし

癒し系ダボシャツ似合う寅さんの腰掛け石と古刹慈恩寺     大須賀 章

土ぼこり巻き上げて過ぐ鄙のバス昭和の傷み乗せ去りゆきぬ   びひゃーな

昇仙峡切り立つ岩間霧深く覚円峰から落武者みえき       水すまし

すべりゆく青大将はいずこへか川瀬にかわず鳴く声あまた    笹谷 逸朗

天下一を目の当りにして想いたる我が産土の南部片富士     宮野 小町

水満々光踊りし田の近くソーラーパネル黒き陽放つ       まさこ

千枚の写経続ける我が思い母の供養と自己の反省        イタヤンマン

藤棚の下で一息汗をふき五月の風が体をぬける         縁寿

花冷えか桜散る散る音もなく病棟の午後あの日の窓辺      さちこ

 

平成28年4月の歌会より

子が負いしリュック背負いて山に入る若き日の吾子の声聞こえず まさこ

野辺送り別れる人は時止めて桜吹雪を我らに見せる       あがさ

いずこより来たりてどこへと問う若さ老ゆけば聞ゆ無常の調べ  びひゃーな

五郎丸祈りのポーズ干支にして孫よりきたる当たりの賀状    水すまし

矢印に従い歩む病院の長い長い廊下の先に兄          雅仙

闇伝い密か聞こえる貨車の音誰に届ける郷の思いを       いつつばし

待てど来ぬバスのダイヤを睨みつけ今日の人生すばやくよぎる  笹谷 逸朗

次の世も二十の頃に会いたいなシニアネットの婦人様達     こうさくどん

五分咲きの桜の下で入学の弾けるような親子の笑顔       宮野 小町

音近しどこからともなく春雷が空一面に光り雨降り       スナメリ

花冷えに首をすくめて宴酒冷えた煮染めにはしは進まず     縁寿

卯月入り燕が一羽下検分西風の押す寒の戻りに         大須賀 章

 

平成28年3月の歌会より

たわむれにグラブはめれば湧きいづる三角ベースの球春熱く   びひゃーな

茅葺きの氷柱の宿は亡母(はは)の郷いとこ同士といろりに華も   水すまし

待ってたよ庭に顔出す蕗の薹夜は天ぷらバッケ味噌かな     スナメリ

線香の煙り流れる墓参り故人の面影菊花にうかぶ        縁寿

野の好きな母の思いに添えたくてお地蔵様をゆっくりと彫る   あがさ

残雪の庭をオス猫ゆったりと横切る風情に油断見えざり     笹谷 逸朗

窓に見ゆ懐かしカーテンそのままに昔の我が家今は誰住む    いつつばし

淡雪に時折春の陽差し込みて雛の顔にも笑みほころびぬ     まさこ

荷をまとめ幼のように我待ちて風光る朝夫は退院        宮野 小町

老夫婦孫の子守が生きがいか動物園で負けずにはしゃぐ     イタヤンマン

ほかほかの白飯の上にばっけ味噌春の使いが鼻を擽る      大須賀 章

 

平成28年2月の歌会より

酔いどれて二人肩寄せ空見ればゴールド色のイルミネーション  スナメリ

ピーナツをかみくだく音小気味よく活字追ってる目にも響けり  ビヒャーナ

雲一つ風一つ無き空に舞う白鷺二羽に水面は光りぬ       雅仙

肝つぶすジェットコースターの高低差異常気象で同じ体感    イタヤンマン

旧友の筆より出でし散らし書き万葉の詩(うた)紙上に遊ぶ      あがさ 

足滑る雪の坂道散歩する連れの子犬は吾を気遣い        いつつばし

プランタの雪を掃えば大根の緑香る葉春を届けり        まさこ

松籟のかすか聞ゆる軒の下日向ぼっこの老い人ひとり      笹谷 逸朗

三陸の宿より眺む御来光流れる時に佇む一隻          水すまし

立春の光に木蓮頑なに和毛の中で口噤みおり          宮野 小町

今朝一輪明日はいくつか梅の花朝の光に春風匂う        縁寿

北寄りの風収まりて田畑は天の恵みの雨水を迎ふ        大須賀 章

 

平成28年1月の歌会より

鐘の音と読経の声はぬばたまの闇に響かむ世界平和を        まさこ

話し込む腰の曲がりし媼(おうな)らの旧交温たむ雪空の下     びひゃーな

目薬がきちんとさせずイライラしこんな筈ではなかった自分   スナメリ

柿の木にヒヨドリ一家せいぞろい残りたる実の分配会議     笹谷 逸朗

風吹いて散らされてなお山茶花は土の上にてなお艶やかに    イタヤンマン

この僕は昔は主人(あるじ)いつの間に女(かかあ)天下の従う人に   こうさくどん

柿の木に取り残したる実が一つ雀チュンチュン仲良く啄ばむ   いちょうまち

あぜ道に群れから外れし白鳥か仲間さがして悲しげに鳴き    水すまし

冬陽あび季節過ぎても二輪咲く白クレマチス老父母に似て    いつつばし

初日の出胸躍らせて目を凝らす暁の海に光さしくる       宮野 小町

雪深く白と黒との水墨画道行く靴の足跡続く          縁寿

震災から四年十か月故郷への思いも新た成人式の日に      大須賀 章