平成29年12月の歌会より

老い二人真冬の夜に鍋料理湯気の向こうに幸せ見える      イタヤンマン

待っていた心温もるにごり酒湯気立つ鍋にカボスの香り     水すまし

冬隣ちあきなおみの唄沁みてひとり酒つぐいろは横丁      笹谷 逸朗

初物のセリ鍋を食べ驚いた根っこも美味し冬の醍醐味      スナメリ

鍋囲む友らこぞりて集い来る話は尽きぬ雪降りつもる      びひゃーな

より高くより強くしてより速しされど大らかあしかび歌会    大須賀 章

鍋かぶり棒ふりまわした男の子らは戦後生き抜きなに思うらん  宮野 小町

曲り道何を追いかけ轢かれしか人造りし道は獣道        いつつばし

冴え冴えと寒月写す夜の河はく息白く今年も暮れゆく      縁寿

 

平成29年11月の歌会より

吹き流ししなやか指先阿波踊り編笠美人足元軽く         水すまし

チンコロリ ポトン カラコン シャーンシャン 水琴窟は星のささやき まさこ

なぜか不意に伝うべきことあるような明日は息子に手紙を書かん  びひゃーな

種蒔きは去年の十月長ネギの最後の十本慎重に抜く        笹谷 逸朗

尾根越えて雪の香連れて北おろし魔法かけゆく軒の柿にも     いつつばし

年重ね旅する仲間数が減り紅葉よりも枯葉気になる        イタヤんマン

今の年も精一杯に生きてたと身を震わせて黄葉散らす       宮野 小町

雪虫が飛んでたなんて本当かな又白銀の世界がくるか       スナメリ

霜降りて遠くかすんだ七ツ森寒さをつれて初雁の群れ       縁寿

輪王寺いろはもみじの全葉が陽を受けておりお茶会の朝                        大須賀 章

 

平成29年10月の歌会より

お月様蒼い光で見つめてる幾世幾世の人の愚かさ         まさこ

性格か親の躾か年寄りに席譲る人スマホする人          イタヤンマン

川縁の施設訪ねしボランティア友とハモりし『荒城の月』     水すまし

特養に去りて空家となりし庭名知らぬ草の風にふるえて      びひゃーな

肌寒い十五夜見るもちとブルル月のうさぎも寒かないかい     スナメリ

夜通しの議論は選挙かミサイルかリンリンコロコロ薮の虫達    いつつばし

素手のまま青虫三十四匹取りにけり無農薬野菜も難儀なものだ   笹谷 逸朗

庭先にタンポポの花咲いているチャッカリアゲハ素知らぬ顔で   いちょうまち

コーラスの少年少女のブラウスのようにふんわり浮かぶ白い雲   宮野 小町

晴れた日に稲の切株赤トンボ羽を休めてじっと動かず       縁寿

月は冴え七十二候の弾き語りコオロギ歌いすいっちょが鳴く    大須賀 章

 

平成29年9月の歌会より

ガレージの隅に逃げ込む落ち葉たちいたずら風とかくれんぼして  水すまし

稲田から湧き舞い上る群雀垂穂も乱る青空のした         びひゃーな

萩ゆれて花のトンネル通り行く香り馨し秋の夕暮れ        スナメリ

長雨に餌の羽虫は寄りつかず蜘蛛の巣にはただ水滴つのる     笹谷 逸郎

西陽射す歩道に風の過ぎ行きて下校の子らの影も涼やか      いつつばし

ルイビトンもシャネルも持たぬ我なれど働きものだよスズキ自動車 宮野 小町

カラスたち夕焼けの中鳴きながら山の寝ぐらに集団帰宅      イタヤンマン

草むらの虫の音気づかう忍び足さんぽの道に秋の夕暮れ      縁 寿

風は止み葉月三十日の寺小道ひぐらし鳴きて百日紅燃ゆ      まさこ

垣根越し甘き誘い漂いて金木犀の小花鏤む            大須賀 章

 

平成29年8月の歌会より

お盆棚前に並びし三世代灯明の影移ろい行きぬ         大須賀 章

暑い夏忘れたように雨つづく七十二年の終戦記念日       まさこ

甲子園若い球児がはつらつと白球とびて青空にはえ       スナメリ

日向の香恋しく恋しき雨の夏蝉ひたに鳴く短き夏を       宮野 小町

真実を伝えよ民に三百万御霊に誠誓う今日こそ         いつつばし

山里は軽自動車がよく似合うウェスゲン村にスバルとスズキ   笹谷 逸朗

七夕の吹き流しゆれ涼しげなペアの浴衣が人混みに消え     水すまし

我々の気分が滅入る長雨も雑草だけは元気に伸びる       イタヤンマン

七夕に折鶴の群れ飛び立って願いを託し天(てん)の川風      縁 寿

     

平成29年7月の歌会より

田の水の潤いよそに広瀬川水の溜まりに稚鮎らあえぐ      笹谷 逸朗

頂きに幾千の星剱岳吾を誘いて雪渓照らし           いつつばし

星くずを集めわが闇照らさんやねたみそねみてそしる心の    びひゃーな  

星を見て昔のロマン思い出すあの娘の笑顔あの日の二人     イタヤンマン

誰植えた路傍の隅で笑ってる紫星のじゃが芋の花        まさこ

猛暑日やゆりかごになるバスの中睡魔おそいて乗り越すときも  水すまし

一瞬に捕らえられてた蜘蛛の糸に恋におちる時ってこんな風かも 宮野 小町

黒枠のお知らせ届き悲しみに幼き友は星座へ旅立つ       縁寿

笑い声嫌な気配で夫が言う共に行かぬか胃カメラ飲みに     スナメリ

観覧車星に近付き遠ざかる五番銀次の蟹股打法         大須賀 章

 

平成29年6月の歌会より

緑紫なる蔵王の峰の雪渓は命絞りて棚田潤し           いつつばし

幼子は白詰草のかんむりをはじける笑顔で母の頭上に       宮野 小町

雨傘の柄に見惚れて振りむけばはづむ笑顔にただ息をのむ     縁寿

天と地の合間にノソと雨蛙世知辛き世をハシと睨みぬ       大須賀 章

広瀬川霧雨のなか目の前を二羽の燕が身をひるがえし       水すまし

雨上がり西の空には虹が見え遠くに霞むはやてが過ぎる      スナメリ

海鞘をさす一滴の水矢の如く女体あらわに海のビーナス      まさこ

朗読に時をむさぼる老いの日は言葉と立ちて世界を創る      びひゃーな

一人欠け二人目欠けて今四人いつかは絶える仲間との旅      イタヤんマン

雨が降る三日続けて雨が降るホウレンソウがひょろひょろ伸びる  笹谷 逸朗

 

平成29年5月の歌会より

母の日が今年も来たよ仏壇にカーネーションの色は白だね     スナメリ

妻逝きて二十年目の夏迎ふほんにこころは静かなりしや      びひゃーな

花冷えや寄り添い歩く影法師夜の路地裏母娘(おやこ)二人で     水すまし

捨てられし児に餅負わせ警察に送り出したる今は亡き母      こうさくどん

満開の牡丹に乗った朝露がルビーに輝きころげて落ちた      縁寿

腰曲げて夕日に向かい田植えするの農夫二人の影は休まず     いつつばし

あおあおの空と海とに包まれて仙台白菜菜の花の島        まさこ

バリ島で土産に拾った貝殻を母は「宝」とタンスの奥に      イタヤンマン

九十一歳の義母のお供はシルバーカー颯爽と乗りお茶っこ会に   宮野 小町

草茂る岩切城址に鎮魂の横笛を聴き古道登りぬ          大須賀 章

 

 

平成29年4月の歌会より

九時就寝午前三時の深夜便レトロな音楽昭和が染み入る      大須賀 章

日々いのちけずりて惜しむ身なれども古希すぎてなほ惰眠むさぼる びひゃーな

暗い空やさしく光る星一つ仲良し友の変わり身なのか       スナメリ

夕暮れ時人混みの中声届く「段差あるよ」うれしい帰宅      水すまし

背を向けて鏡をのぞく孫むすめ気に入りたるか赤きカバンを    いつつばし

熟睡は全身麻酔の五時間半目覚めし我を見る固い顔        笹谷 逸朗

春風が開けた窓からサーと入り四月の暦を舞いおどらせる    宮野 小町

春風が静かに耳を通りすぎベンチの温もり桜はまじか       縁寿

イヤなこと考え過ぎて眠れない美女と恋する夢でも見よう     イタヤンマン

 

平成29年3月の歌会より

もどかしや三寒四温ぞようやっと田の水ぬるみ蝌蚪の群がる   びひゃーな

寄り添いて偲ぶ心を亡き人に灯る炎は涙をながし        水すまし

動くとも動かざるとも言えないな原発恐しされど故郷に     スナメリ

頭では次の行動予定するけれど体は言うこと聞かず       イタヤンマン

満開の口紅色のサイネリア吾小言の如く花粉振り撒く      宮野 小町

ピクピクと規則正しく動く脈あなたがいるから私は生きる    まさこ

風も無く垣根に咲いたサザンカに名残の雪がふわりと降り    縁樹

彼岸入り海山川も震災後六年を経て友に寄り添う        大須賀 章

毛嵐の水面に休む水鳥に翁は今日も朝餉届ける         いつつばし

 

平成29年2月の歌会より

七年め祈りささげしコンサート永遠に忘れじ君の面影      水すまし

野の端に健気に咲いたタンポポを愛しく見てた亡き母恋し    イタヤんマン

幼き日母にハイハイ言われし見古希になり言う妻にハイハイ   こうさくどん

国境も言語の壁も海も越え翼たおやか白き冬鳥         いつつばし

野に山に一面雪の冬景色どこかで春の気配はすれど       スナメリ

飄然と枯野越え行く翁の背凍てし満月熱く照らさん       びひゃーな

ポトピタと屋根より溶けるリズム音は雪の童のないしょ話しか  まさこ

冬の陽に青々しきよプロが為す長ネギ畑を横目で見やる     笹谷 逸朗

高騰の野菜よこ目に献立を白菜鍋から湯豆腐にかえ       宮野 小町

子雀が餌をさがして我先に群れてさわいで雪面走る       縁寿

午前五時野兎走る青葉山冬枯れの中音の幽し          大須賀 章

 

平成29年1月の歌会より

暁の畦道に立つ地蔵尊ぼんやり月にぼんやり浮かぶ       雅仙

久しぶり取ったぞ有馬ルメールよ待ちに待った配当少し     スナメリ

暁に両手を合わせ逝き人の冥福祈る浜の人びと         いつつばし

暁に手の掌かざし透かし見る上がれよ上がれ熱き血潮よ     まさこ

様変わり正月らしさ何も無い昔懐かし昭和の風情        イタヤンマン

病院で受付待つ人一応に皆無口にて耳大きくす         宮野 小町

北風に追われて走る落ち葉たち立ち止まりては輪になって躍り  水すまし

ビニールに春のあけぼの射し込めば笑い始める小松菜の苗    笹谷 逸朗

霜に耐え雪をかぶった寒菊の黄色い花がかすかに匂う      縁寿

どんと祭今宵で世話役終了す赤き炎に身を焦がらせて      大須賀 章