令和五年 十二月の歌会より

酷暑にて喘ぎし幾日思えども今年はやはり暖冬が良し    笹谷 逸朗

庭の柵季節はずれの赤蜻蛉冬の夕陽に静かに止まり     水すまし

杖を持ち手をとり歩く老夫婦輝く銀杏枯れゆく欅      かつゆき

足元にカサリと踏まれる葉の音は秋の名残か冬の仕度か   初ちゃん

師走成り確かに過の日実感し傘寿の今は懐かしく思う    山羊

懸命に生ききったのだと言うようにもみじ葉もえてゆるゆると散る 小町

ご夫婦で育てて漬し沢庵のほっとする味卒寿の奥技     えいちゃん

伊達藩の刑場跡の縛地蔵我らの業を引き受けて風      晴

採る人の無くて渋柿熟れ落ちる若者知らぬ干し柿の味    いつつばし

クリスマスイルミネーション華やかにかたや戦場宇宙は観てる まさこ

かばねやみ朝の冷え冷え起きかねて冬眠したく布団にもぐる ヒカル

天高く広い田圃の切株で子雀遊ぶ秋の夕暮れ        縁寿

 

 

令和五年 十一月の歌会より

原っぱに可憐に咲きし草花が好きだった亡母「らんまん」に思う 水すまし

坂道に座り込む児を眼の前に歩いたもんねとママは手をとる えいちゃん

古セーターほどけば糸はじぐざぐと時にからんだ人生模様  小町

侵略の勢い失せて泡立草夏の暑さに身は痩せ細り      いつつばし

道端の小石につまづく人の世はつまづきながら歩み続ける  初ちゃん

空高く白く流れる雲疾く玉葱の苗雪除け急ぐ        笹谷 逸郎

寒空に白い三日月残り月明方までの月下美人咲き      かつゆき

傘寿過ぎ短歌習うか御笑止なり我が生きざまを歌に残すか  山羊

地下道を溢れる程の学生ら徴兵されぬ世を護らねば     晴

切株が並んだ田圃に秋の雨一人農夫がせっせと励む     縁寿

ノルディック遠出が叶い松島へ秋から冬へと道辿り行く   大須賀 章

青空をビルのガラスに高々と映して夏は速やかに過ぐ    ヒカル

 

令和五年 十月の歌会より

昼飯の後眠くなる悪い癖すでに三十年この身に根付き    笹谷 逸朗

衿元に冷たい風が通り抜け芋煮たしなむ夏の終わり日    かつゆき

さざ波が銀鱗のように光りたる釜房湖の上白き三日月    小町

テレビでは初雪予報伝え来る郷の父母柿を干したか     いつつばし

あの猛暑何処へ行ったの朝夕の冷たき風に羽織るスカーフ  水すまし

寂聴の生まれし処徳島市変わらぬものは良きお接待     大須賀 章

ピーちゃんはどの公園へ杖ついて遊びに行くの孫も行きたい ヒカル

町内でハチマキ揃えし運動会泣き出す空に花火上がらず   えいちゃん

朝起きて太陽を見て手を合わす今日も無事感謝と祈り    イタヤンマン

朝採りの枝豆茹でる良き香り旨みもありて色鮮やかに    水すまし

秋雨にコスモスけむる河原道深まる秋に心さみしく     縁寿

孫のよなコーチに身体支えられもう一かきと頑張ってみる  晴

 

令和五年 九月の歌会より

茄子トマト三尺ささげにオクラまでまた花開く九月の雨に  笹谷 逸朗

小競り合い犬も喰わぬが妻が喰う尻尾を巻いて我は生き抜く いつつばし

鬼灯を友が持ち来る幼き日のホオズキ遊びに話がはずむ   小町

幽霊の話を聞いて泣いていたあの子は今ではお寺の嫁に   かつゆき

薬来山広がる裾野花畑思いも広く心も豊か         初ちゃん

貧乏の脱出の為には工場誘致脱線して説く社会科教師    晴

それぞれの定めを受けて実を結ぶ百合は天井藤は地表に   まさこ

山海の珍味を添えておもてなし最後の法要君への想い    水すまし

見事なり真夏日続く炎天下負けずに凛と情熱の薔薇     イタヤンマン 

梔子の新芽を青虫摘み食いあの香ばしき白色無残      大須賀 章

大雨に流れず耐え虫たちよ奏でる声に気が癒されし     ヒカル

真夏日も日暮れに遥か秋の雲朱に頰染め子らが駆け行く   えいちゃん

風涼し夜空にくっきり秋の月鈴虫の声川面にひびく     縁寿

 

令和五年 八月の歌会より

新しい短歌が欲しい永ちゃんやサザンが歌ってくれるような 笹屋 逸郎

身が二つ有れば両校応援す仙台育英花巻東         小町

真夜中にクレーンを立てて工事する灼熱覆う日本列島    かつゆき

スーパーへ辿る坂道我が歩み立ち止っては腰を伸ばして   水すまし

幾千も風に震えて肩寄せて雲の平にチングルマ咲く     いつつばし

ありがとうこの言葉だけ言えたなら心に棘を刺す事ないに  初ちゃん

お盆にはご無沙汰詫て親戚へ義理が重たい挨拶まわり    イタヤンマン

夕暮れにカサブランカはすっと浮く睦まじき夫婦の幻の家  まさこ

親父らの屋台に児らが列をなす町のお祭りかき氷店     えいちゃん

鉢植えのオクラの花を御浸しにシャキシャキ感を箸休めとせん 大須賀 章

縁日の裸電球ゆれ人混みも蛸焼きの香もレトロにゆれ    ヒカル

 

令和五年 七月の歌会より

アゾフ海に潜み棲みいるベルーガの百年生きた大魚は無事か 笹屋 逸朗

物言えば唇淋し言えぬのは尚更寂し言葉は難し       初ちゃん

百二歳で天に召されし義母を偲ぶ次世代の我らに何を託すや 大須賀 章

タモリ氏の坂道学会あずましい私勝手に仙台支部長     晴

張り裂くよう演習場の山越えて国を守ると砲音響く     いつつばし

まだ若い会いたい女性がいるうちは歳重ねても青春なのだ  イタヤンマン

青下のダムからはねる光る水セミの鳴き声七月の午後    かつゆき

梅雨晴れ間白きカーテン風に揺れ百合の香漂う夏は来たれり 水すまし

グリーンのベストで今朝も道に立つ渡りし子らの挨拶軽く  えいちゃん

東福寺横丁の寺の六地蔵送ってくれる皆微笑んで      小町

木漏れ日を集めて光る縁側に葉影くっきり紫陽花の花    縁寿

朝開き夕に落下すハナミズキこの世に未練無きごと朽ちる  ヒカル

 

令和五年 六月の歌会より

筍を手提げ袋に詰め込んで重そうに持ちバス待つ老婆    水すまし

月山にかかる夏雲やわらかく水田かそかに揺れて静まる   笹谷 逸朗

父の日も母の日も今は夫婦の日引き出しに残る肩たたき券  えいちゃん

バス停に骨折れた傘捨て去りに取りて差し行く雨宿りの子  いつつばし

お囃子が街なか巡る青葉辻はちまき踊る月夜のすずめ    かつゆき

いつの間に今年も咲いたバラの花季節は花が教えてくれる  初ちゃん

ウグイスの声とボールを打つ音が周囲の森に静かに跳ねる  ヒカル

ポテサラは亡母の自慢の一品で秋には必ず紅玉入れて    小町

紫蘇葡萄梅で創りし赤い酒また飲みたくてやっぱまた飲む  晴

年齢差越えて交流楽しかり余生まだまだ夢はふくらむ    まさこ

亀憩う沼を行き交うアメンボウのその滑走は雨足の如    大須賀 章

 

令和五年 五月の歌会より

新緑の青葉繁れる杜祭り独眼竜も山車で輝き        水すまし

玄関に見慣れぬ傘の一つ有り取り違えしか昨夜の友と    いつつばし

一晩で二センチ伸びた胡瓜苗5月の雨を天恵として     笹谷 逸朗

最高だ君が言うから最高だしょうへい岩手銀河鉄道     かつゆき

コンペ終えへとへとになり我が家着く安堵でドアに持たれかかる ヒカル

客待ちのドライバーさんの足元で野良猫ゆうゆう毛繕いす  小町

手術日が延期になった我が生命お呼びじゃないの天も地獄も イタヤンマン

とぐろ巻き幹は空洞朽ちるとも老龍の気魄白藤たわわに   まさこ

花散りて草木に来世あるけれど人にも来世有るのだろうか  初ちゃん

五年間病と向き合い別れ逝く八十八夜に半月の輪      えいちゃん

「戦争を知らない子供」が増えてきてどんどん膨らむ防衛費かな  晴

ノルディック初心忘れず三年目二本のポールで拍子をとりて 大須賀 章

夕空に西にたなびく茜雲学校帰りの児童が走る       縁寿

 

令和五年 四月の歌会より

階段をヨチヨチ登る我がいてピョンピョン登るうらめし子犬 かつゆき

天災で瓦礫と化した道端に残りし老木小枝芽吹いて     水すまし

満開の桜眺めて喉鳴らし外に出してとねだる三毛猫     いつつばし

朧月淡き光でミサイルや戦車を桜に変えてくれぬか     まさこ

逝きし吾子が大好きだった「ガンダーラ」ゴダイゴ歌う徹子の部屋で 小町

誰だっけあれあれあの人「神田川」のど自慢みてやっと思い出す   晴

過ぎゆく日あまり早く年重ね楽しくもあり侘びしくもあり  初ちゃん

飛ぶことが難儀であるか鳩たちは車の前を歩き横切る    笹谷 逸朗

春麗らずんずん伸びるひこばえの藤の切り株生命あふれ   ヒカル

庭内の椿の花の競演は今を盛りにの夢に溢れる       大須賀 章

良き友と桜見た日は快晴で花も心も満開だった       イタヤンマン

満開の桜の下にも春ひとつ宴の如く土筆群れなす      えいちゃん

 

令和五年 三月の歌会より

一段につぼみ膨らみ春めいてマスクを外し卒業晴し     ヒカル

俵万智金子みすずの本ならべ残り少ない人生を詠む     かつゆき

大好きなマドロス姿がよく似合う津波に遭いし亡き友偲ぶ  水すまし

田畑の跡を覆いて広々と太陽パネル電気の畑        笹谷 逸朗

最初にね指を通して弾くのとして見せる娘にママは頷き   えいちゃん

「お元気で」帰り間際に手を握る古木の根に似た手は暖かき まさこ

パチパチと音立て燃える囲炉裏炭今朝のラジオは桜前線   いつつばし

春光に角ぐむ辛夷咲きたいと声上げるように日に日に膨らむ 小町

どことなく亡き母に似ている女将さん干支まで同じ鼠歳とは イタヤンマン

畝立てて彼岸明けにはジャガイモを三月末には何植えようか 大須賀 章

枝先に黄緑色の芽がふいて春が静かにほころびだした    縁寿

日本のLGBTQのカールセル麻紀レモン育てて飄々と生く   晴

 

令和五年 二月の歌会より

ありがたい誕生祝い友集うサークル絆続けと祈る     イタヤンマン

筆ずきの友の年賀が届かない赤い椿が初雪に散る     かつゆき

雪の中ラーメン求め列つくる傘もささずにスマホ片手に  いつつばし

炬燵にてテレビ見おれば時はやしバス停に待つ時間は長し 笹谷 逸朗 

雪掻きに出て来る家の一つ減り救急車の灯りが夜に閃く  えいちゃん

赤松の根元に座る地蔵様手編みの帽子マフラーほっこり  まさこ

命とは儚いものだ笑顔しか思い出せない従兄弟が逝った  初ちゃん

福寿草一雨ごとに膨らみて一ふさ二ふさ微笑み返し    大須賀 章

春あさき水辺にうつる水仙の幼き葉かげ雪解に耐え    縁寿

戦前と戦後とコロナくぐり抜けありがたきかな八十路の今は  水すまし

和顔施という言葉を知りてそれからは私の人生ゆるゆると過ぐ 晴

積りたる落葉のあわいに名も知らぬ草が萌えいで春はすぐそこ 小町

 

 

令和五年 一月の歌会より

目が覚めた生きてるあかし朝の五時なんて正確人間時計   かつゆき

ノルディック風が身に凍む初詣温まる茶屋の和やか休憩   水すまし

賀状は今季で諦めるも決められずあれこれ思いつつ出す   ヒカル

諺に転ばぬ先の杖と言う転ばなければ気付かないのだ    初ちゃん

手をつなぎ十人連れでニコニコと冬の晴れ間の保育の散歩  いつつばし

教訓を活かせと人は言うけれど権力持つと忘れてしまう   イタヤンマン

ハイハイに動態視力も孫疲れしばしの憩い盛岡散歩     大須賀 章

朝焼の雲間にわずか青い空元旦の光一筋差し来       小町

アスファルトに落ちたままの団栗も飢餓になれば奪いあうのか 晴

教科書の本にはない男にもドラマがあると大河は語る    えいちゃん

正月の空を見上げて思い出す子供が上げる凧の数々     縁寿